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アカデミー賞® 国際長編映画賞〈スロバキア代表〉!
1942年にアウシュヴィッツに強制収容された二人の若いスロバキア系ユダヤ人は、1944年4月10日に実際に収容所を脱走し、アウシュヴィッツの内情を描いた32ページにも渡るレポートを完成させた。収容所のレイアウトやガス室の詳細などが書かれたレポートは、非常に説得力のある内容で、このレポートは「ヴルバ=ヴェツラー・レポート(通称アウシュヴィッツ・レポート)」として連合軍に報告され、12万人以上のハンガリー系ユダヤ人がアウシュヴィッツに強制移送されるのを免れた。本作の監督は、スロバキア人のペテル・ベブヤクが務め、本年度アカデミー賞®国際長編映画賞のスロバキア代表に選出された。脱走する二人のスロバキア人は、『オフィーリア 奪われた王国』のノエル・ツツォル、新人のペテル・オンドレイチカが熱演。二人を救済する赤十字職員ウォレンには『ハムナプトラ』シリーズのジョン・ハナーが好演している。
1944年4月、アウシュヴィッツ=ビルケナウ収容所。多くの囚人にとっては変わらない朝だったが、遺体の記録係をしているスロバキア人のアルフレートは、日々多くの人々が殺される過酷な収容所の実態を外部に伝えるため、同じスロバキア人のヴァルターとともに脱走を実行した。脱走が明るみになり、残された同じ収容棟の囚人らは、何日も寒空の下で立たせられ、ラウスマン伍長から執拗な尋問を受けていた。仲間の助け・想いを背負った二人は、なんとか収容所の外に脱走し、ひたすら山林を国境に向けて歩き続けた。今にも倒れてしまうほど疲弊していたが、奇跡的に助かり、赤十字によって救出された二人は、赤十字職員のウォレンにアウシュヴィッツの信じられない実態を告白しはじめた。果たして、彼らの訴えは世界に届くのか-。
ノエル・ツツォル|アルフレート・ヴェツラー
ペテル・オンドレイチカ|ヴァルター・ローゼンベルク
ジョン・ハナー|ウォレン(赤十字職員)
ボイチェフ・メツファルドフスキ|コズロフスキ(点呼責任者)
ヤツェク・ベレル|ヘルシェク
ヤン・ネドバル|パヴェル
フロリアン・パンツナー|ラウスマン伍長
ラース・ルドルフ|クヅク兵士
ノエル・ツツォル|アルフレート・ヴェツラー
1989年3月25日、スロバキア・ノヴェ・ザームキ生まれ。ビジネスアカデミーを卒業後、ブラチスラバの舞台芸術アカデミーに入学。自然な演技と繊細なパフォーマンスで才能をすぐに開花させ、ペテル・ベブヤク監督の『The Cleaner』(15)で映画デビュー。続くTV「Behind the Glass」シリーズに出演したことで、広く注目を集める。映画『オフィーリア 奪われた王国』(18)では、ナオミ・ワッツ、クライヴ・オーウェンと共演。監督ペテル・ベブヤクの過去作『Marhul'ový ostrov』(11)にも出演しており、本作で3本目。新作『The Nightsiren』(21)では、ペテル・オンドレイチカと再び共演。 
ペテル・オンドレイチカ|ヴァルター・ローゼンベルク
1994年生まれ。舞台芸術の学生で、本作で長編映画デビュー。いくつかの演劇やスロバキア国立劇場の舞台に出演。次回作に、ノエル・ツツォルと再び共演の『The Nightsiren』(21)がある。
ジョン・ハナー|ウォレン(赤十字職員)
1962年4月23日、スコットランド・キルブライド生まれ。スコットランド王立芸術学校を卒業後、94年公開『フォー・ウェディング』で注目を浴び、99年の『ハムナプトラ』シリーズのジョナサン役で有名となる。その他の出演作に、『ザ・ワーズ 盗まれた人生』(12)、『レッド・ハンター』(18/未)。最新作に、デビッド・スキナー監督の『Dark Glass』(21)がある。
ボイチェフ・メツファルドフスキ|コズロフスキ(点呼責任者)
1980年4月5日、ポーランド・ドゥシュニキ生まれ。04年に演劇学校を卒業後、ヴロツワフのポーランド劇場に入団。映画、テレビに多数出演。代表作に、『イレブン・ミニッツ』(16)がある。
ヤツェク・ベレル|ヘルシェク
1983年、ポーランド・ザブジェ生まれ。08年に演劇デビュー後、09年に演劇学校を卒業。代表作に、『リベリオン ワルシャワ大攻防戦』(14)、『残像』(16)、『泥の沼』『ブレスラウの凶禍』(18/Netflix)、『7リミット・キルズ』 (20/未)など。
ヤン・ネドバル|パヴェル
1990年9月26日、チェコ・ジェチーン生まれ。プラハの芸術アカデミーで演技を学ぶ。18年からテレビに出演し始め舞台では、19年からチェコのプルゼニのJ.K.ティルシアターで活躍。「The Curious Case of Mr. Holmes」 「TAMURA」などの舞台に出演。21年には、カンパ博物館で舞台「Werich」に出演予定。
フロリアン・パンツナー|ラウスマン伍長
1976年7月20日、独・ビーレフェルト生まれ。ポツダム映画・テレビ大学で演技を学ぶ。00年からキャリアをスタートさせ、映画・テレビを中心に活躍。主な出演作に、『トンネル』(01)、『ワルキューレ』(08)、「バビロン・ベルリン」(17)、「ダーク」(17-20/Netflix)がある。
ラース・ルドルフ|クヅク兵士
1966年8月18日、独・ヴィットムント生まれ。これまでに数多くのテレビ・映画に出演。主な出演作に、『ラン・ローラ・ラン』(98)、『そして、私たちは愛に帰る』(07)、『ソウル・キッチン』(09)、『帰ってきたヒトラー』(15)、『ヒトラーへの285枚の葉書』(16)がある。
監督・脚本 ペテル・ベブヤク
1970年9月1日、チェコスロバキア(現・スロバキア)・パルチザンスケ生まれ。スロバキア・ブラチスラバの舞台芸術アカデミーで演技と映画監督の両方を学び、99年に卒業。俳優としてキャリアをスタート。監督では、短編映画で様々な賞を受賞し、注目を集める。08年からはT Vドラマの監督も務め、幅広いキャリアを積み重ねてきた。11年に、ラブロマンス作品の『Marhul'ový ostrov』で長編デビューを飾る。その後、様々な新しいジャンルの作品に取り組み、ホラー映画『Zlo』(12)、心理的サスペンス『The Cleaner』(15)を発表。『THE LINE』(17)ではクライムスリラーのジャンルに挑戦し、アカデミー賞®外国語映画賞(現・国際長編映画賞)のスロバキア代表に選出されたほか、カルロヴィヴァリ映画祭で監督賞を受賞。19年のスリラー『Trhlina(The Rift)』は、スロバキアでヒット。テレビでは、「Spravedlnost (JUSTICE)」(17)で、チェコ・ライオン賞を獲得し、ベン・アフレックの製作会社パール・ストリート・フィルムズにも売却された。本作では、スロバキアのアウシュヴィッツ収容所の脱出を描き、『THE LINE』に続いてアカデミー賞®国際長編映画賞のスロバキア代表に選出。新作に、21年公開予定のスリラー『Stínohr』がある。
1944年4月、二人のスロバキア系ユダヤ人、アルフレート・ヴェツラーとヴァルター・ローゼンベルク(後に、ルドルフ・ヴルバに改名)は、アウシュヴィッツのビルケナウ・ナチス絶滅収容所から逃げることに成功し、この大胆な行動が最終的に12万人の命を救いました。近年のスロバキアでは、過激派勢力が議会の議席を得る状況になってきています。残念ながら、このような問題はスロバキアに限ったことではありません。ヨーロッパ全土で、以前よりも多くの人々がファシスト思想を持つ政党を支持、もしくは容認し、過激派とその共感者は次第に 勢いを増しています。人権が危機にさらされている今、沈黙を保つことは、過激者を支持しているのと同じです。私たちは、先人たちの過ちを繰り返してはなりません。だからこそ、これまで犯してしまった失敗の物語を描くことが重要です。失敗を忘れないために『サウルの息子』や『シンドラーのリスト』のような映画をもっと増やすべきです。本作で希望となるのは“ヒロイズム”です。ごく一般人として生きてきた人々の“ヒロイズム”を描いています。彼らは、自国スロバキアに不要とされ、売り払われた人々です。アルフレートとヴァルターは、自分たちの命を救うために脱出したわけではありません。アウシュヴィッツでのホロコースト(大量虐殺)を暴露するという使命のために脱出したのです。そして最終的に彼らの脱出が、死に追いやられつつある12万人のハンガリー系ユダヤ人の命を救ったのです。
ホロコーストの実態を報告したところで信じてもらえなかったという皮肉は絶対に繰り返すべきではない。本編前のテロップとクレジットのバックで流れる今の発言は見逃さないでください。
ホロコーストという歴史の真実を伝えるために、遺体の記録係を強いられていた二人の若者が、命をかけて現在に遺した「ヴルバ=ヴェツラー・レポート」。それを元に映画化された「アウシュヴィッツ・レポート」は、未来へと命を紡ぐ多くの若者たちに、真実を託すために遺されたものだ。本作を劇場で観て、彼らの記録レポートを記憶として繋いで欲しい。
足取りが、全身が、重くなるほどの描写。観てから進め。でなければ、次の過ちを止められない。
この映画が伝える記録を世界は忘却してはならないことを記憶せねばならない。そのためには、この、この世の地獄をまず目を逸さず観ることだ。そして世界中に伝え残すことだ。
通常ならテーマ音楽が鳴り響くラストクレジット、多くの言葉が延々と積み重ねられる。とても明快なメッセージだ。これは昔話ではない。今につながっている。まったく同感。だからこそ思う。加害された彼らはイスラエルを建国し、今はパレスチナの民を加害している。救いのない連鎖が続く。そこで本作の冒頭に立ち返る。過去を忘れる者は必ず同じ過ちを繰り返す。問題は忘却だけではなく記憶のありかただ。
世界が騙されていた。まさか、これほどひどいとは。実態をメモして、若者が脱走。ナチスの殺人工場を止められるか。勇気と正義の戦い。手に汗握った。すごい!
地獄は人間が作る。知らないフリをしてはならない。「忘れるな!」そうこの映画は叫んでいる。冒頭の言葉こそ、見終わって忘れてはならない。